ところが父親は、しもべたちに言った。『急いで一番良い衣を持って来て、この子に着せなさい。手に指輪をはめ、足に履き物をはかせなさい。そして肥えた子牛を引いて来て屠りなさい。食べて祝おう。この息子は、死んでいたのに生き返り、いなくなっていたのに見つかったのだから。』こうして彼らは祝宴を始めた。ルカの福音書15章22-24節(p150)
序 論)取税人や罪人たちと一緒に食事をしておられた主イエスをパリサイ人や、律法学者たちが非難しました。 (1-2)
主イエスは、三つのたとえを話されることを通して、彼らに応えられます。(3-32)
三つ目の「放蕩息子のたとえ」を通して示されることは…
本 論)
1.我に返った弟息子
弟息子は父親が生きている間にむりやり遺産をもらいました。(12)
そして、彼は、自分の「すべてのものをまとめて遠い国に旅立ち」ました。(13a)
そこで欲望のままに財産を湯水のように使い、それを失ってしまいました。(13b)
お金が無くなると共に楽しみは消え、彼の友も彼から離れて行ったことでしょう。
それに追い打ちをかけるように予期しなかった「激しい飢饉」がその地方に起こります。(14)
すっかり一文無しになった弟息子が身を寄せた「その地方に住むある人」は異邦人でした。(15)
「豚(ぶた)」は当時のユダヤ人が最も忌み嫌った動物で不浄なものとみなされていました。(レビ記11章7節p193)
彼はユダヤの良家の息子なら決してしないはずの仕事(豚の世話)をそこでする羽目になりました。(15)
そして、豚の餌(いなご豆)でもよいから食べたいと思うほどの状態になりました。(16)
しかし、誰も彼を助けてくれませんでした。
そのとき、彼は「我に返り」ました。(17)
そして、帰るべきは「父のところ」だと気づきます。
彼は父親のもとを離れ、落ちるところまで落ちてしまってはじめて、「お父さん」の恵みと力がどんなに大きいかが分かったのです。
「立って、…こう言おう」の言葉には、彼の悔い改めの気持ちが表れています。(18)
19節は自分の現状を認めるへりくだりの言葉です。
「あなたの子」として甘えるのではなく、「雇人の一人」として、父のもとで働こうと決心しました。
父のもとを離れ「遠い国」に行った弟息子は、父なる神様のもとから離れてしまい、「神様抜きの人生」を送って行き詰まったり、絶望してしまった人間の姿を示しています。
しかし、「いなご豆」(どん底の絶望状態の象徴)から目を上げて、父なる神様を仰ぎ、心を向けることを神様は、待っておられます。
2.走り寄り、迎える父
弟息子は決意を実行に移すため、「立ち上がって、自分の父のもとへ向かい」ました。(20a) この箇所は「悔い改め」とは神様のもとに帰ることであることを示しています。
そして、父親は息子が出て行ったその日から、一日千秋の思いで、息子が自分のもとに帰って来るのを待っていたのです。
変わり果てた姿になった息子が遠くからやって来るのを見て父は「かわいそうに思い、駆け寄って」抱きしめました。(20b)
息子は用意していた言葉(18-19)を言おうとしますが、父親は最後まで言わせませんでした。(21)
そして、父は彼を家へ連れて帰って、一番良い衣、指輪、履物を身に着けさせました。(当時、奴隷は履物を履きませんでした。) これは父が彼を最愛の息子として扱っていることを意味していました。
続いて父は「祝宴」を開きます。(23-24)
「肥えた子牛」(23)は特別なもてなし用に飼育されていたものでした。これは祝宴の盛大さを示しています。
「この息子(原文では「この私の息子」)は死んでいたのに生き返り…」(24)と父は言っています。
父親から見れば、自分の息子は「死んでいた」し、「いなくなっていた」(失われた)も同然の状態でした。
しかし、「生き返り、…見つかった」(父のもとに戻ってきた)のです。(24)
祝宴を開いたことと、この言葉に父親の大きな喜びが表れています。
結 論)この「放蕩息子のたとえ(あわれみ深い父のたとえ)」に示される、父なる神様の人間に対するあわれみと無条件の赦しの背後に、主イエスの十字架で流された血潮があります。
「駆け寄る」(「走り寄る」(口語訳))父の姿は、私たちのために天から地に降ってきてくださったイエス・キリストの御姿と重なります。
私たちは、神様の目から見れば、神様のもとを離れ、「死んだ」状態にあったものでした。
しかし、私たちの罪に対する罰を身代わりに十字架の上で受けられ、死なれた御子イエス様のご愛と赦しがあるがゆえに、私たちは主イエスを信じることによって罪赦され、「生き返って」父なる神様のもとに立ち返ることができるです。
父なる神様は今も、「失われた」人たちを捜し求めておられます。そして、御子イエス様を信じた私たちを「神の子」として大きな喜びを持って迎え、受け入れてくださるのです。
(参考)
『放蕩息子の帰還』
(オランダの画家 レンブラント(1606-1669)が1668年頃制作した絵画。ロシア エミルタージュ美術館所蔵)
『放蕩息子の帰郷 -父の家に立ち返る物語-』
(ヘンリ・ナウエン(1932-1996)の著書) オランダ出身 カトリック司祭