ヨハネの福音書19章1~16節

ピラトは、再び外に出て来て彼らに言った。「さあ、あの人をおまえたちのところに連れて来る。そうすれば、私にはあの人に何の罪も見出せないことが、おまえたちに分かるだろう。」イエスは、茨の冠と紫色の衣を着けて、出て来られた。ピラトは彼らに言った。「見よ、この人だ。」ヨハネの福音書19章4-5節 (p.224)

序 論)
主イエスは総督ピラトの官邸で彼に尋問され、答えられます。(18章33-37節p223
 ピラトは主のうちに死刑に当たるような罪を見い出せま せんでした。それで過越の祭りの時の慣例に従って主を釈放することを提案します。(38-39)
 しかし、ユダヤ人たちは強盗バラバの釈放を要求しました。(40)
 その後のピラトの言動と主イエスの言行を通して示されることは…

本 論)
1.ピラトとユダヤ人たち
 ピラトは主イエスを兵士に引き渡し、むち打ちの刑に処しました。(1)
 兵士たちは、王として訴えられた主に茨の冠をかぶらせ紫色の衣を着せて嘲笑しました。(2-3)
 ピラトは主イエスの哀れな姿を民衆の前にさらし、訴える者たちの気持ちを満足させようとしました。(4-5)
 「見よ、この人だ」(5)というピラトの言葉には、あなたがたは、こんな哀れな人を死刑にするつもりか、という気持ちが込められています。
 しかし、宗教指導者たちは断固として主イエスの十字架刑を要求しました。(6)
 主イエスの無罪を語るピラトに対して、ユダヤ人たちはローマの法でのさばきが行えないのなら、ユダヤの律法に従ってさばくようにとユダヤ人たちは彼に迫ります。(7)
 主イエスが神の子であると自称しているということが神を冒瀆し、死罪に当たると主張しました。

2. ピラトの決断
 ピラトは彼らの「神の子」という言葉に恐れを覚え、再び官邸に入り、主イエスを尋問します。(8-9a)
 彼は主イエスに「あなたはどこから来たのか」と尋ねます。しかし、主は沈黙を守られました。(9b) (イザヤ書53章7節p1259)
 ピラトは自分の権威をかさに、主イエスに答えを求めます。(10)
 主イエスは答えられます。(11)
 ピラトの権威はローマ帝国から与えられたものでした。
 しかし、主イエスの権威は「上から」、父なる神様からのものです。
 ピラトは自分に与えられた権威を正しく用いて主に無罪を宣言し釈放することができませんでした。
 そして、神からの権威を与えられているはずの大祭司が 主イエスをピラトに引き渡した罪はもっと大きい、と言われます。(11)
 主のみことばを聞いたピラトは改めて主を釈放しようと しました。(12a)
 しかし、ユダヤ人たちは、さらに激しく叫びます。
 「あなたはカエサル(ローマ皇帝)の友ではありません。…カエサルに背いています」(12)、という彼らの言葉はピラトには脅しとなりました。彼はそのように思われることは何とか避けようとします。
 ピラトは主イエスを外に連れ出し、へブル語で「ガバタ」 (「敷石」という意味)と呼ばれる場所で裁判の席に着きます。(13)
 彼は皮肉を込めて「見よ、お前たちの王だ」とユダヤ人たちに告げます。(14)
 彼らはますます声を荒げ、十字架刑を要求しました。(15)
 さらに祭司長たちは「カエサルのほかには、私たちに王はありません」と神様がイスラエルの真実の王であるという先祖伝来の信仰に反することを言いました。
 ついにピラトは主イエスを十字架につけるために彼らに 引き渡しました。(16)

結 論)神様を真の王とせず、カエサルを王としてしまったユダヤ人たちはこのときから約40年後、ローマ帝国の侵攻により、神殿が破壊され、国を失ってしまいます。(AD70年)
 ピラトはこの後、別件の失策のため総督の地位を追われることになります。
 彼が言った「見よ、この人だ」(5)という言葉は、後に主イエスに心を向けさせる言葉となりました。
 また彼の主イエスへの「あなたはどこから来たのか」(9)という言葉は、私たちにとっては「あなたはこのお方を神の御子、救い主と信じますか」、「あなたにとって主イエスはどのようなお方ですか」と問う言葉として響きます。
 聖書を通して主のみことばを聞き、十字架の主に心を向け、イースターを待ち望みつつ、このレントのときを過ごしましょう。

(参考)
  新聖歌99  「馬槽の中に」
   作詞:由木 康 (1896-1985)
   日本キリスト教団東中野教会牧師,青山学院神学部その他で聖歌学を講ずる一方讃美歌の編纂に携わった。